「この選択で、本当にいいんだろうか」
仕事でも、家のことでも、大きな決断の前は誰でも迷います。
そんなとき、私にはずっと頼りにしている物差しがあります。「三方良し」という古い言葉です。今日は、この物差しに何度も助けられてきた店主の体験談をお話しします。
自分中心ではなく、全体を見て決める
台風が近づいていたある連休、私は結婚記念日の旅行を一日分、早めにキャンセルしました。
お店をいくつか営んでいると、不測の事態にいつも備えることになります。
そのとき考えていたのは「私が行きたいかどうか」ではありません。
お客様、スタッフ、家族——関わる人すべてにとってどうか、を総合的に眺めると、進むべき方向が何となく見えてくるのです。自分中心を離れて次の一手を考えると、物事は良い方向に動いていく気がしています。
「そわそわ」が教えてくれた、大阪出店
2010年の春ごろ、「もう一店舗、出さなきゃ」という謎のそわそわを感じたことがありました。
その年の秋、何年かぶりに大阪の親友を訪ねた帰りの新幹線で、一通のメールが届きます。スタッフからの「仕事を辞める」という連絡でした。
その瞬間、「次にお店を出すのは大阪だったか!」と感じて、3か月後には大阪にお店を出していました。
そして、その2か月後。東日本大震災が起こったのです。
東京で営業ができなくなった私は、大阪へ出稼ぎのような形で通うことになりました。被害を受けていない大阪の地で営業できたことで、お店は存続の危機を免れたのです。1年前のそわそわの答えを、私はそこで知ることになりました。
早く動けばいい、わけではない
こう書くと「じゃあ早く動けばいいのね」と思われそうですが、そうではありません。
「時期尚早」という言葉があるように、思ったことがすぐ叶うわけではなく、タイミングと準備がとても大切です。
大阪出店が叶ったのは、スタッフが充実していて、すぐ動かせる資金があったから。
それは勝手に揃っていたのではなく、何年も行動して蓄えてきた結果でした。物事には、進む順番があるのです。
「三方良し」という物差し
「三方良し」は、近江商人に伝わるとされる言葉です。
「売り手」「買い手」「社会」の三方すべてにとって良い商売を、という考え方で、私はこの言葉が好きで、そういう世界を自分でも作れたらと思いながらお店を営んでいます。
これは商売に限りません。人間関係、夫婦関係、仕事への取り組み方——どんなことにも通じる考え方だと思っています。
何かを動かすとき、自分中心ではなく、関わる人すべてにとってその行動がどうなのかを考える。どれかひとつが欠けていると、どこかでつまずく。うまくいかないときは、たぶんそのどれかが欠けています。
団扇が教えてくれた、引っ越しの答え
先月、私の中に急に湧き上がってきたキーワードがありました。「引っ越し」です。
気になる物件をひとつ見つけて、問い合わせをしていました。
ある水曜日の夜、いつも酵素風呂に通ってくださる常連のお客様と、お風呂上がりにおしゃべりをしていたときのこと。
「実は気に入っている物件があるんです」と話しながら、ふと目の前の団扇に目が行きました。
「そうそう、こんな物件——あれ!? このマンションだ!!」
お客様が持ってきてくださった団扇に載っていたのは、私が気に入っていたまさにその物件の案内だったのです。
「もう、そこで決まりですね」とお客様。私も、そんな気がしていました。
「待たない」と決めて動いた金曜日
迎えた金曜日の朝。不動産会社からの返事はまだ来ていませんでしたが、待たずにこちらから連絡してみました。
すると「一番手のお申し込みの方がいて、この後も内見のご予約が入っています」とのこと。
「いつでも見に行けます」と伝えると、その日の昼に内見させていただけることになりました。
印鑑のフルセットを小脇に抱えて、颯爽と出発。部屋に入って、すぐに分かりました。「私はここに住む」と。リビングを見渡すより先に、申し込みの書類をお願いしていました。
翌日、私に決まったというご連絡をいただきました。
この引っ越しも、三方良しで考え抜いた結果たどり着いた答えでした。私の仕事のペースにも、スタッフにも、お客様にも、家族にも、良い条件が揃っていたのです。
まとめ——迷ったら、三方を見渡してみる
もしあなたが今、何かに向かって動こうとしているなら、それが「三方良し」になっているかを、少しだけ想像してみてください。
自分良し、相手良し、まわり良し。三つを見渡すと、見えていなかったヒントが浮かび上がってきます。
迷うのは、真剣に生きている証拠です。
ひとつの選択がうまくいかなくても、道はいくらでも開けます。どうぞあなたの「三方良し」を、探してみてください。