「父を、亡くしました」
久しぶりに来店されたお客様の第一声でした。
けれどその声は、悲しみに沈んでいるというより、不思議なほど落ち着いていたそうです。
今日は、彩石屋の店頭で実際にあった、あるお客様のお話をさせてください。
「今日は、ひと息つきに来ました」
その方は、長年お店に通ってくださっているお客様。
何かの節目や区切りのたびに、ふらりと足を運んでくださいます。
その日も椅子に腰かけて、ふうっとひと息。
それから、ぽつりぽつりと話してくださいました。お父様を自分が見送ると決めて、長く一緒に暮らしてきたこと。そして、その言葉どおり、喪主までやり遂げたこと。
細い背中に、どれほどの責任と重圧がのっていたことでしょう。
まわりからは、たくさんの意見も飛んできたはずです。傷つき、揺れた日も、きっと数えきれないほどあったと思います。
「落ちきったら、上がるしかない」
それでも彼女は、まっすぐな目でこう話してくれたそうです。
「残された自分にできることは、一生懸命生きること。生きているって、本当にありがたいことなんです」
「もうとことん落ち込んだから、あとは這い上がるだけ。とことん落ちたら上がるしかないし、上がれるってことを、わたしは知っているんですよ」
そう言って、ニコリと笑ったのだそうです。
どん底を知った人の言葉には、理屈を超えた説得力がありました。
「どうしよう」から「こうします」へ
スタッフが何より驚いたのは、彼女の変わりようでした。
以前は「どうしたらいいですか?」「どう思いますか?」と、選ぶことを人に委ねがちだった方が、その日は何もかも自分で決めて、自分で動いていたのです。
「乗り越えられそうにないときは、信頼できる人に話せばいい。助けてくれる人も、応援してくれる人もいる。人はひとりでは生きられないから」
「しんどいときこそ、気持ちを下げないようにしています。仕事を変えるのも、前は逃げたいからだったけど、今は次の段階に進むためなんです」
迷いを誰かに預けるのではなく、自分の心に聞いて、選んで、決めて、動く。
人生の主導権が、彼女自身の手に戻った瞬間を見せてもらったような出来事でした。
いつもと違う色——アイオライトを選んだ理由
その日、彼女が選んだ天然石は、アイオライトでした。
棚を見た瞬間に「これだ」と直感が動いたそうで、迷いはなし。
しかも、いつもなら選ばない色味の石です。心が変わると、選ぶものまで変わるのですね。
アイオライトは、進むべき道を照らす石とされてきました。
あとから意味を知った彼女は、「ぴったり」と笑っていたそうです。意味から選ぶのではなく、心で選んだ石が、いまの自分を映していた——そんな選び方も素敵だと思います。
まとめ——山も谷も、自分の足で
長くお店に立っていると、お客様の変化がよく見えます。
もがいて、苦しんで、それでも少しずつ前に進む。どんな人も、人生は山あり谷ありです。
違いを生むのは、その道を自分の意思と選択で進めるかどうか。
たくさんの選択肢をひとつずつ自分で選んで、一歩ずつ進んでいけば、抜け出せるときがきます。
迷ったら、自分の心に聞いてみてください。あなたの中の答えは、いつでもあなたの味方です。